049/大山です。
石田さんと初めてお会いしたのは、確か2006年の春頃だと記憶しております。 Kさん宅でお会いし、挨拶代わりに私の作ったスピーカーを聴いて頂きました。 石田さんはスピーカーを聴いた感想を物静かな語り口で話されましたが、口調とは裏腹に、かなり厳しい内容の指摘を受けました。(いわゆるボロクソって奴です。) 今から考えると石田さんは物事の本質を、ただズバッと指摘された訳ですが、初対面の私としてはかなりムッとしたのも事実でした。不穏な空気を感じ取ってくれたのか、すかさずKさんのフォローが入りその場は何とか収まりました。 私としては最悪な出会いだった訳ですが、「THE技術者」という印象は強烈に残りました。 「SONYにこんな人居たんだ」と驚いたのを覚えています。 その後、Kさんを交え石田さんのバックグラウンドの話を聞いて行くと、業界の大先輩で有る事が判明していきます。オーディオの話から雑学の領域まで、マニアックな話題がどんどん出て来て話が尽きません。会って数時間後には意気投合し、スピーカーの在り方について意見を交換していました。 石田さんが言われた言葉で印象に残っているのは「アクセル踏む前にブレーキ離す方が先だろ?」という事でした。その意見に私も大賛成という事で、その線でスピーカーを作りましょうという事になりました。 2006年頃のオーディオ業界ではアンプの出力が、やれ300Wだ500Wだと大出力を誇示していました。アンプの大出力化に伴いスピーカーの能率やインピーダンスが極端に低い製品が多く、アンプの躯体もどんどん巨大化していました。 石田さん曰く、「やれ1KWだとかアクセル踏むのも勝手だけど、ブレーキ離したら100Wでお釣り来るでしょ」と言って笑っています。 私も石田さんに聞きます。「ブレーキの正体は何ですか?」と。 「それは熱損失とNFBです。」とキッパリ。 「SD05にはNFBとかクロストークの概念が有りません。電気自動車にエンジンが無いのと一緒です。SD05がどう動作しているのかを考えた時、スピーカーの設計も自ずと変わるでしょ?」とおっしゃいました。 私にとっては禅問答みたいな物です。そこから石田さんには私の質問攻めに根気良く付き合って頂き、SD05の動作も詳しく教えて頂きました。 色々聞いた後に最終的に私からした質問がこれです。 「結局、SD05にすると何が変わるんですか?」と。 今までの石田さんの解説を無視した質問ですが、私はあえて聞きました。 石田さんは自信たっぷりにこう言われました。「SD05はCDに入っている情報を正確に淡々とスピーカー端子まで届けています。そこから先はスピーカー屋さんの仕事ですよ。」と。 またまた禅問答に逆戻りです。 やはりこのおじさん、一筋縄では行かないようです。 質問を変えてみました。 「SD05に替えて一番判り易い変化って何ですか?」と。 すると石田さんは「音場の再現性と音の浸透力です」と言うではありませんか。 ここでようやく「音場」というキーワードが出てきました。 私は「部屋に録音時の音場が出現して、広帯域な音がストレスなく鳴ったら最高ですね」と石田さんに聞いてみると 「だから、スピーカー端子までその情報が行ってるから心配しないで」と真顔で言ってきます。 「このおじさん、難しい事サラっと言うけど本気か?」という心の声と同時に自信満々の石田さんを見ていると、「でも、何かやれそうかも・・・」と思う自分も居ました。 そんな話をした数日後、石田さんから横浜のAVフェスタに出展されるとのお話を聞きました。同時に「この前言ってたスピーカー、AVフェスタに間に合いますか?」とも・・。 「このおじさん本気だったんだ!やる気満々じゃねーか。よーしそう来るなら受けて立ってやるぜ!」と私も気合が入ります。 石田さんからはスピーカーのサイズやスペック的な事は一切言われていません。でも頭の片隅には「スピーカー端子までは・・・」のフレーズが引っ掛かっています。 ここで私は決断します。「そのスピーカー端子に来ている情報とやらを全部受け止めてみせます!」と。 私からの答えは全てT2に込め、製作しました。 スピーカー側で音場を阻害している原因は従来のエンクロージャー形式に有ると考え、削り出し2ピース構造を開発しました。 インピーダンスカーブの暴れも、複雑で重いネットワーク回路も「ブレーキ」の一部と知り、DCRの低いコイルの作成からコンデンサーまであらゆる視点から設計を見直していきました。 特徴的な削り出しのバッフルはホワイトシカモアの突き板で仕上げ、木の存在感もバッチリ演出しました。 そして再びKさん宅にて石田さんにT2をお披露目しました。 石田さんに最初に聴かせたスピーカーは、内容積8Lの小さな2WAYスピーカーでしたが、 数ヶ月後、目の前に有るのは3WAY5スピーカーの大型フロアースピーカーのT2です。 これには石田さんもビックリしたようです。 正直、「こいつ狂ってる・・。」と思われたのかもしれません。 しかし私も真剣です。あれだけ自信たっぷりにSD05の世界を語られたままでは収まりが付きません。 やられたらやり返す、「10倍返しだ!」の心境です。 そして迎えたAVフェスタ2006 。サウンドデザインブースにはSD05とMS1とT2のみという非常にシンプルなブース構成です。 掛けるCDもサンサーンスのオルガンとオペラ アイーダからの一幕という構成。 従来からのオーディオショーでは考えられない選曲です。 機器を並べたてるのがショーの本質では有りません。石田さんとは「まずは音楽を聴かせましょう」という事でスタートです。 音場情報がたっぷりと入ったアイーダでは、遠くに消え入るような声が見事に再現されています。オーディオショーで消え入るような音を聴かせるとは、さすが石田さんです。他社とは全く別のアプローチ。次元が違うとはこういう事かと思い知らされます。お客さんはどんどんSD05の世界に引き込まれていきます。 そしてサンサーンスのオルガンをゆったりと浸透力のある音で静かに静かに鳴らしていきます。 T2はオルガンの最低部を見事に再生し、同時に石田さんが言った「スピーカー端子までは・・・」の言葉も嘘ではなかった事が証明されました。 私のSD05への挑戦も返り討には逢わなかったようで、ホッとしています。 実際に会場に来られ、音を聴いて頂いた方々がファンクラブに投稿してくれています。バックナンバーから読み返してみると、当時の記憶が昨日のように蘇ってきます。 こうして始まったAVフェスタ2006を皮切りに、数年間に渡って怒涛のイベントラッシュが始まります。 コロラド州デンバーでのロッキーマウンテンオーディオショーや那須での例会、弦楽亭、杉並公会堂はじめお茶の水クリスチャンホールでのレコード演奏会等々。そうそう、淡路島にも行きましたね。 そんな中、スピーカーもT2からT3へ、そしてT4へと機種が増えていきました。大きさは変われど、設計の根本にあるのはSD05の目指す所に変わりは有りません。 葬儀の帰りにTさんと一緒にKさん宅にお邪魔いたしました。広いリスニングルームの床にちょこんと小さなT4が置かれています。HD-1からの信号を受け、SD05がT4を淡々と駆動しています。 空間にポッと楽器が浮かび上がり、音楽が流れていきます。時には大きなステージが出現し、遠くへ遠くへ展開します。オーケストラのエネルギーが部屋いっぱいに放出されています。 出会った時に石田さんと話した理想の音が、同じ場所で現実となって鳴り響いています。 石田さんは「ファンクラブの開設にあたって」でこう書かれています。 極小ではありますが自分のブランドを立ち上げた現在は、これまでになかった貴重な経験をさせていただいております。その一つとして、オーディオ機器の使い手の声が聴こえてきたことが挙げられます。そしてSD05のお客様を通じて、各人各様の使い方楽しみ方があることを知り、感心しきりの最近です。使いこなしに当たって、作り手としては考えてもいなかったようなことに出会うこともしばしばです。開発・設計者としては大変興味深く、大きな刺激を受けています。 「作る側の向こうには、使う側の人が居る」と・・。 幸いファンクラブには使い手の達人たちが数多くいらっしゃいます。そして皆さん秘密主義ではないようです。使いこなしのノウハウを公開してくれています。 ファンクラブの活動はこれからが本当の真価が問われると思います。イベントを開催するにしても皆さんのご協力が必要です。石田さんが残してくれたSD05の繋がりをもっともっと深めていけたら最高ですね。 049/大山
by SD05club
| 2013-08-28 22:58
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