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音符はデジタル?それともアナログ?

先日の荻窪での演奏会の後の食事会(飲み会?)で、面白い話がサウンドデザインの石田さんから出ました。石田さんは千葉から荻窪までは総武線と中央線で来ました。お茶の水からは中央線の新型車両に乗られたそうです。さすがに新型車両は乗り心地と加速や静粛性は向上していたそうです。しかし、電車の乗り心地は車両だけではなく、線路の整備状況によっても変わります。電車に乗っていてもいつもオーディオのことを考えている石田さんは、線路の整備具合をオーディオ装置を置く部屋の特性の喩えて話を始めました。

「中央線では旧型車両と新型車両が交互に運用されているようですが、テッチャン・鉄道マニアでなくても、誰でも新型車両の乗り心地がいいのは体感できる。それは当然のことでが、線路の整備を誤差プラマイ5mmの精度でやったとすると、新型車両だろうと旧型車両だろうと、どれでも乗り心地はよくなります。それが環境整備の効果でオーディオに例えると、部屋の環境整備ですね。しかし、現実には整備が悪い箇所があると、その部分でははっきりと、新型車両のほうが乗り心地がいいと分かるでしょう。オーディオ装置を置く部屋も、整えるのが一番いいに決まっていますが、現実問題となると厳しい難しいという人もいるでしょう。SD05は、その意味では新型車両なんですね。だから、整備をやりたくてもできない部屋でもいい音を出すためのお手伝いをすることができる。部屋のNFB(ネガティーブな影響)と切り離す、そのNFBをなくすための手段としてのデジタルアンプにしたのです。」

石田さん特有の面白い表現です。アンプ内の負帰還回路は、時としてスピーカーがマイクになって、発電された部屋の音の強調された響きを前段に戻して再生音に影響を与えています。そういえば、ウェスターンアンプの修理や再生をされている真空管アンプの専門家も、NFBをなくす手段としてのフルデジタルアンプを評価されているました。2011年以降のアナログテレビの廃止で、入力信号がデジタル化されると、一番シンプルな回路構成としてSD05は評価されるでしょう。s-masterも現在では、名前を変えていろいろなデジタルオーディオ機器、テレビ、カーオーディオ、ゲーム機にも使われてきました。1ビットのデジタル信号はそのままでも、アナログ波に見えていますね。

美味しい料理とお酒が入り、皆ご機嫌になってきました。石田さんは、続けます。

「ところで、楽譜に書かれた音符は、デジタルだとおもう?それともアナログ?」居合わせた人たちは、考えてやはり、座標軸を表しているのだから、デジタルなのでは?という答えになりました。すると石田さんは、やっぱりという顔をされて、笑いながら音符はアナログ波形なのですといわれました。位置情報と時間情報を書いてあるけど、五線譜の音符の段階では、アナログになっていると。デジタル(数字)という意味では、本当は三味線の楽譜がデジタルなんだと言われました。」

うーむ、確かに三味線の楽譜は文字(数字)の情報ですね。1ビットの波形は、そのままアナログに見えてきます。s-masterからでてくる波形は、アナログ変換されているのですね。楽譜という位置情報を演奏家達は修練で楽器の指使いに変換しています。いちいちドレミと読んでいるわけではないのです。五線譜上の位置関係と時間軸を指が追い、連続した音に変換する、休止符を正しく音として再現する。条件反射的に動かしている指使いをフィードバックさせながら、今一人の自分の内部にいる指揮者が音をコントロールして音楽に変換していく。そのデジタル・アナログ変換をスムーズに出来る人が良い演奏家なのかも知れません。

人間の限界に挑むような32音符の早さのパッセージの指使い、オーケストラの世界が崩落するようなダイナミクスな演奏を聴くと、鼓膜の破れるような音の大きさだけではなく、演奏の強弱のダイナミックレンジ、すなわち弱音部の再現性が大事なことに気がつきます。その意味でもアンプのダイナッミックレンジとS/N比は大事です。弱音部が休止符の沈黙が再現されないと、ただ大きな音へと向かってしまいます。楽譜に残された情報を音に変換する演奏家。その変換の過程の複雑さを感じさせないシンプルで昇華された音づくりにこそ、音楽家は命を掛けています。一流の演奏家の証は、弱音部の美しさだと私は思います。

楽譜はデジタルかアナログかは、面白い問題で、解釈や立場でもいろいろな意見が出てくるようです。しかし、デジタルそのものが数字であるということを、忘れた論議も多くみられます。ただ数字を細かく変換できるだけではだめで、音に変換した後に音楽が生きていないと意味がありません。どうやら問題の本質はそのあたりにあるようです。

GRFのある部屋より 原題「演奏会の後に」2008年12月10日
by sd05club | 2013-09-18 14:35 | Sound Cafe
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