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MS1改の感想-2

心理学や脳科学用語で「クオリア(Qualia)」という言葉があると聞きます。我々が外界の刺激(音、光、匂い、食べ物、物理的接触、等々)を受けて何かを感じる、その感じたこと、感じたものをクオリアという。元の刺激が光である場合に、その波長を定義しても不十分なことは言うまでも無いが、他の様々な物理量を動員しても人間の感覚を通した結果としてのクオリアを十分には表現できない、これは科学において大変困難な問題である、とのこと。

イチゴのクオリアとは、あるメロディを聞いて悲しい感じがするとは、、、すなわち、オーディオの世界で、あーでもない、こーでもないと毎日お悩みのことは、科学の最先端と共通の悩みであると言えるようです。石田さんがこの間デジタルケーブルの方向性について「いろいろと考えるが、論文にはなりそうもない」とおっしゃいましたが、ひょっとするとクオリアの論文になるかも知れません。

閑話休題。MS1改、SD05、B&W802Dで聞く音は「解像度が高い」とは感じないことに気づきました。銀塩写真で言えば、超微粒子の低感度フィルムではなく、やや粒子が粗い高感度フィルムに通じる、と言えば良いのでしょうか。わざと粒子を荒らしたモノクロ写真のリアリズムというのもありますね。粒子が細かい・粗い(すなわち解像度が高い・低い)の違いは、言うまでも無く結果として異なる印象の写真を与える。しかしどちらも焦点の合ったリアルなイメージを提示することができる。

MS1は超微粒子ではないが、解像度の高低とは別次元の、開放的なリアルな音を提供するというように感じます。私がMS1改と比べるのは、ソニーのSCD-DR1のCDの音です。それらは解像度の高い美しい音を聞かせると思っていましたが、近頃時々「のどを詰めた歌い方」のようだなと思うことがあります。MS1改を導入する前は無かった現象です。SACDの音もそうかもしれません。高解像度や滑らかさは得たが、変わりに何かを失った。結局最近は、すぐにMS1改の開放的リアリズムの世界に戻ってしまうのです。

MS1を導入して、端から聞きなおす続きの中で印象に残ったCDを以下に記します。小さなコレクションにたまたまあったものを、ただばらばらとピックアップしただけですが。
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シトコベツキによるバッハ無伴奏バイオリンソナタとパルティータ(Orfeo)は、CDを1枚選べと言われたらこれ(2枚組みだけど)という愛聴版です。柔らかく、鋭く、輝かしく、沈みこみ、そして力強く、息詰まる緊張感が心地よい。大きく鳴らしても、小さく鳴らしても、様々なニュアンスで聞けます。全てに共通するのですが、MS1の開放的な音がダイレクトに飛んできます。同じシトコベツキ(vn)がダビドビッチ(pf)と共演するブラームスのバイオリンソナタ(Novalis)は、マイクを近接させたという音ですがMS1の柔らかさが組み合わさり良い結果を生むようです。

シフ(vc)、レオンスカヤ(pf)によるラフマニノフのチェロソナタト短調(Philips)の第1楽章は、甘美の一言。退廃美といっても良いでしょうか。MS1改、SD05はこんな音も出せるのですね。最初に聞こえる「音場」などはその内どこかへ行ってしまい、チェロとピアノが空間で絡み合います。最高!

中学の音楽の時間みたいと言われることを承知で、なつかしいCDを二つ。皆さんも一度聞きなおしてみることをお勧めします。一つは、イ・ムジチによるビバルディ四季(Philips)。 弦とハープシコードが、ハイスピードかつ美しい響きを、開放的にのびのびと聞かせます。 もう一つは、エルガー「エニグマ変奏曲、威風堂々」(ショルティ指揮シカゴ響・ロンドンフィル(London)。邦題「威風堂々」のとおりにショルティの目一杯「立派な」金管と太鼓の響きは大変楽しいものです。オーディオデモにも最適?一緒に収録されているコケインの絵画的な楽しい展開も楽しめます。

次も定番で気が引けますが、ビル・エバンスのポートレート・イン・ジャズ(Riverside, 1987年発売盤)。言い尽くされているだろうけれど、「枯葉」におけるピアノとベースのスリリングなキャッチボール、特にラファロのベースをMS1改は明晰に表現します。

Deep in a Dream(Pacific Jazz)はチェット・ベイカーの所謂編集もの。2002年に発売されたJames Gavinによる伝記本”Deep in a dream – The Long Night of Chet Baker”に沿って曲が選ばれています。冒頭の「マイファニーバレンタイン」は、ジェリー・マリガンカルテットとしての52年のスタジオ録音。当初Fantasyレーベルのシングルとして発売と記されていますが、その後アルバムに収録されたのかどうか私には分かりませんでした。その後彼のトレードマークとなったこの曲のベストな録音ではないでしょうか。(CDの最後には例のお歌も入っています。)他に沢山入っている中では、「アロントゥギャザ」(58年録音)。アルバム「チェット」に収録されていて以前にも衝撃的印象を受けた曲です。ビル・エバンスらの豪華共演者とともに、極めてスローなテンポでこの世のものとも思われぬ(ちょっと大袈裟?)美しいイメージが描かれます。いいですねえ。
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最後に蛇足ですが、MS1の純正リモコンにテンキーが無いので不便を感じている方へ。ソニーのCDのリモコンはどれも共通のようです。テンキーのついているのを探せば何曲目でも一発です。

TH/093

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T.Hさん、二回に分けてMS1の感想をお送りいただきありがとうございます。おっしゃるとおりですね。MS1が再生する音楽は、あまりオーディオを感じなくて済むのかも知れません。空調の利いた室内からのガラス越しの風景ではなく、窓を開けた風を感じるのかも知れません。
その意味では、XA55ESとは正反対に有ると言えましょう。オーディオ的な感覚には55ESの方が合うのかもしれませんね. K/013
by Sd05club | 2007-07-12 22:16 | Sound Cafe
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